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高松地方裁判所 平成9年(ワ)532号 判決

原告 A

右訴訟代理人弁護士 渡邊和也

同 B

被告 国

右代表者法務大臣 臼井日出男

右指定代理人 河合文江

同 野村佳令

同 山科由美子

同 神保利春

同 小山田健児

同 辻村芳城

同 西川武春

同 山本輝雄

同 松原哲也

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金八九九万二一八〇円及び内金八〇三万二一八〇円に対する平成九年一二月九日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、国立香川医科大学(以下「香川医大」という。)の学長が原告に対し、学生の本分にもとる行為を行ったとして同大学学則(以下「学則」という。)四八条に基づき六か月の停学処分(以下「本件処分」という。)を行ったことについて、原告が、右処分は学長の裁量権の濫用逸脱に当たり違法であるとして、国家賠償法一条に基づき、国に対し損害賠償金八九九万二一八〇円及び弁護士費用を除く内金八〇三万二一八〇円に対する訴状送達日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

一  前提となる事実(証拠の記載がないものは当事者間に争いがない。)

1  原告は、平成四年四月に香川医大に入学し、平成九年二月当時は五年次生として在学していた者である。

C、D及びE(以下、それぞれ「C」「D」「E」という。)は、原告といずれも同年度入学で、原告と同じ軟式野球同好会「アスパラガス」に所属している学生である(以下、右四名を「原告ら四名」という。)。また、F(以下「F」という。)はCと同じ軽音楽部に所属している学生である。平成九年二月当時は、Cが三年次生、E及びDが四年次生、Fが六年次生であった(乙五、七、一四、証人C)。

2  本件暴力事件の発生及びそれまでの事情

(一) 原告は、平成七年六月一五日、香川医大の合宿室での飲み会に参加していたが、隣室での勉強会を終えた同大学三年次生(当時)であるG(以下「G」という。)を飲み会に呼び、酒を勧めた。なお、原告とGは初対面であった。原告は、Gが途中で帰宅したので、同人宅に電話し、途中で挨拶もせずに帰ったのは失礼であるなどと言って再びGを呼び出した。原告は、戻ってきたGに対し、Kはパンツ一枚になってGが戻ってくるのを待っていたなどと言い、Gらがパンツ姿になったところ、五年次生H(以下「H」という。)がGらの写真を撮った。

(二) KMSページの件

香川医大の一九九五年度版の学年別電話帳「KMSページ」のE及びKの欄には、J、G及び当時三年次生であったI(以下「I」という。)につき、「ころす」「やみうちに気を付けろ」等の落書きがされている(乙二八)。

(三) 本件暴力事件の発生

原告が、平成八年一一月一四日深夜、C、E、D、H及びFらと飲酒中、約一年前に開催された九州人会においてFが出席を求められなかった件や遅れて参加したCが女子学生を通じて会費を請求されたことが話題になり、Cが、同会の幹事であった同大学四年次生J(以下「J」という。)に電話して謝罪を求め、Jと琴平電鉄池戸駅前で会うことになった。

そこで、原告ら四名及びFは、同月一五日午前一時三〇分ころ、車で待ち合わせ場所に出向きJの下宿の近くに駐車したが、途中で車のマフラーカッターを落としたため、E、Dらが池戸駅方面に引き返し、その後を原告及びCが同方向に歩いていると、Jが現われた。CはJに近づき、突然、同人を蹴りつけ、逃げる同人を追った。原告は右の様子を目撃し、Cらに追いつき、他方、CはJに対する暴行を止めた。そのころ、警察官が現場に駆けつけた(以下「本件暴力事件」という。)。なお、本件暴力事件においてJに対して直接暴行を加えたのはCだけであって、原告をはじめ他の者は暴行を加えていない。

3  本件処分

香川医大は、平成八年一一月一八日に本件暴力事件の発生を知り、原告ら四名及びFらに対する事情聴取を行った。当時の香川医大学長入野昭三は、平成九年二月一〇日、右事情聴取等の結果、本件暴力事件は原告ら四名及びFを含むグループが約一年前から行っていたいじめや嫌がらせ行為に関連するものであると判断し、教授会の審議を経て、原告に対し、香川医大学生としての本分にもとる行為があったことを理由に、学則四八条一項及び二項に基づく懲戒処分として六か月の停学処分を行った。右処分は、同月一二日、原告に対して、また、同日付け書面で原告の父Bに対してそれぞれ通知された。なお、本件暴力事件に関与したCに対しては一年間の停学処分、F、D及びEに対しては原告同様にそれぞれ六か月の停学処分がなされた(乙一、四ないし一七、二九)。

4  本件処分後の事情

原告は本件処分の後、平成九年四月、五年次に原級留置(留年)となった。なお、香川医大の一年分の授業料は三七万五六〇〇円である。

二  争点

1  本件処分は司法審査の対象となるか(本案前の主張)。

(被告の主張)

学校長は、教育上必要があると認めたときは学生、生徒に対し懲戒を加えることができ、懲戒にあたっては教育上必要な配慮をしなければならない(学校教育法一一条、同法施行規則一三条一項)。大学長に認められる懲戒権は、教育を施行する大学側が当該大学においてその理想とする教育を行うため、学内の秩序維持や学生に対する教育的見地から行使すべきであるから、懲戒権の発動は教育施行のための自律的法規範を持つ団体の内部規律維持の問題である。そして、停学処分の有無が一般市民法上の資格や地位に関係するという規定等は存在せず、停学処分がなされても大学施設の利用等一般市民が享有しうる権利は一般市民としての立場ではなお享有しうるから、停学処分が一般市民法秩序と直接の関係を有するものとはいえない。したがって、本件処分には裁判所の司法審査権は及ばない。

(原告の主張)

(一) ある処分が司法審査の対象となるか否かは、被処分者が侵害された権利の性質等により判断されるべきところ、教育権を保障する憲法二六条その他の教育関連法規が学生等の学習権を積極的に保障している趣旨からすれば、在学関係内部の法的問題であっても、学校当局の教育権行使が学生等の学習権その他の権利を一方的に制限した場合には、当該処分は司法審査の対象となる。本件において、原告は、本件処分により授業への出席等を阻止され学習権その他の権利を大学側により一方的に制限されているのであるから、本件処分は当然に司法審査の対象となる。

(二) また、大学のように一般社会と異なる特殊な部分社会を形成している場合でも、一般市民法秩序と直接の関係を有する限り、内部的な問題についても司法審査の対象となる。国立大学は公の教育研究施設として一般市民の利用に供されたものであり、学生は一般市民として国立大学を利用する権利を有する以上、学生に対してその利用を拒否した場合には、学生が一般市民として有する右利用権の侵害として司法審査の対象となるところ、本件では、原告は、本件処分により六か月間にわたり香川医大という公の教育研究施設を利用できなかったのであるから、本件処分は司法審査の対象になる。

2  本件処分の対象事実の存否

(被告の主張)

(一) 本件処分の対象事実は「平成八年一一月一五日午前一時三〇分ころ、原告ら四名及びFが酒気を帯びて自動車を運転し(あるいは酒気帯び運転であることを認識しながらこれを容認し、かつ助長し)たうえ、Jの下宿まで徒党を組んで押し掛け、Cが一方的に足蹴りをしたのを原告において認識しながらこれを放置容認し、ひいてはCの暴行を助長したこと」であり、本件暴力事件以前の原告らのいじめ(後記3)は処分の対象事実自体ではないが、本件暴力事件が偶発的でないことを示す事情である。

(二) 本件暴力事件の際、CはJとわずかに言葉を交わすといきなり同人の胸や腹を足蹴りし、髪を引っ張り回したうえ、蹴り倒す暴行を加えた。原告とCは逃げるJを追いかけ、CはうずくまるJを更に数回足蹴りした。この間、原告は、大したことはないと考えてCの暴行を止めもせず傍らに立ち、倒れているJに「起きろ。」と言って無理に立ち上がらせようとした。Fは座ってこれらを見ていたが、警察官が駆けつけると、原告やCに声を掛けて逃走を促した。

(三) 原告ら四名及びFは、九州人会に関する因縁を付けてJを深夜に呼び出したうえ、本件暴力事件を起こしたものであり、単なる学生の喧嘩とはいえない卑劣な行為であって、本件暴力事件自体軽微なものとはいえない。原告は、CやFがJに対する電話の際に既に興奮して喧嘩腰になっていたことや、それまでに原告ら四名を含むグループがJらに対して嫌がらせをしていたこと(後記3)からして、原告ら四名及びFのうちのいずれかの者がJに詰め寄り謝罪を強要したり制裁を加えたりすることを当然予想し得たにもかかわらず、待ち合わせ場所まで同行して他の者に同調した。原告はこのように同行、同調することがCの暴力行為を容易にし、助長しうることを認識し得たはずである。Jは、それまでに原告ら四名を含むグループから受けた嫌がらせの経緯もあり、Cのみならず原告ら四名及びFが徒党を組んで押し掛けてくることに畏怖したのである。したがって、原告自ら暴力を振るったのではなくても、原告を含むグループがJに恐怖感を与えつつ、抗議等を行おうとしていたところ、その興奮状態の結果として暴力事件に発展したものであり、一種のいじめ(後記3)等の延長として起こったものであって、偶発的とはいえない。また、その際、原告らはCが飲酒運転をしていることを承知しながら止めることもなく同乗してこれを助長した。

(原告の主張)

本件処分の対象事実は否認する。

原告は、数メートル離れた場所でCのJに対する暴行を目撃し、右暴行を止めるためにCを追いかけ、Cに対して暴行を止めるよう呼びかけた。原告がCらに追いついたときには、Cは暴行を止めていた。なお、Jが座り込んだのは原告がCらに追いつき、Cが暴行を止めた直後であり、CがうずくまったJを蹴った事実はない。CがJの髪の毛を引っ張り回した事実もない。

3  本件処分の対象事実の背景事情として、本件暴力事件以前に原告ら四名がグループを形成したうえ、G、J、Iに対して共同していじめ行為を行っていたか。

(被告の主張)

原告ら四名は、一緒に遊び、あるいは飲むときに誘い合うような関係であり、概ね行動を同じくしているのであるから、他人からみれば、グループであると受け取られるところ、原告ら四名は、次のとおり、G、Jらに対していじめ行為を行っていた。

(一) スキー部員の呼出行為

平成七年の新入生勧誘の時期の早朝午前六時ころ、「アスパラガス」のメンバーが飲み会をしていた合宿室にスキー部員二名が呼び出され、「アスパラガス」の悪口を言っていたとして抗議を受けた。その際、原告ら四名がその場にいた。

(二) トイレ事件

Dは、平成七年ころ、トイレでGの胸ぐらをつかみ、トイレの壁に押し付けた。

(三) 平成七年六月一五日ころのG及びJに対する行為(「パンツ事件」)

(1)  原告らは、平成七年六月一五日、Gらが勉強会をしている隣室で「アスパラガス」の飲み会を行い、大騒ぎをしたり、壁を叩いたりして勉強会の邪魔をした。原告は、Gを呼び出して無理に酒を飲ませるなどし、Gが隙をみて逃げ帰ると、同人宅に電話して、「なぜ途中で帰ったのか。注いだ酒を全部飲まないのは納得できない。どうしても来ないなら家に押し掛けて家の前で騒ぎ立てる。」などと脅し、Gを再び合宿室に呼び出した。そして、原告はGに対し、「先輩方が服を脱いでいるのにお前が服を着ているのはおかしいから、お前も脱げ。」などと言って強要し、Gをパンツ一枚にさせた。飲み会の参加者が、原告の父は弁護士で偉いのだと言うと、原告はGを土下座させ、「俺は裁判官でお前は罪人だ。」などと言い、HがGの土下座している場面を写真に撮った。

その後、D、E及びCらはGに対し、「パンツ王子が歩いとる。」等と言ってからかったり、Gの所属する軟式庭球部の掲示板に、「G君写真を取りに来て下さい。」「G君飲みに行きましょう。」等の落書きをするなどした。

(2)  原告は、同月一五日深夜、「アスパラガス」に以前所属していたことがあり、G及びJと同じ実習を受けている三年次生K(以下「K」という。)がJを飲み会へ呼び出そうとして電話をした後に、Jに電話し、その留守番電話に、飲み会に来ないと気まずい旨の伝言を残した。また、宇宙人と名乗る者(原告ら四名を含むグループの一員と思われる。)がJの留守番電話に、直ちに来ないと家を爆破する旨の伝言を残した。Jは、このような嫌がらせの電話が続いたことから電話番号を変えた。

(四) I宅訪問の件

原告ら四名を含むグループのうちの数名が、平成七年夏ころ、試験前に、Jの同級生であるIの下宿に押し掛けゲーム大会をしようと言い、Iが断ると、数分後に戸をどんどんと叩いた(なお、右の戸を叩いたときに原告がその場にいたかどうかは不明である。)。そして、数日後、D、C及びEが金属バットを持ってIの下宿に押し掛け、土足で上がり込んで同人の非礼を責めた。

(五) KMSページの落書きの件

KMSページのE、Kの欄に記載されたG、J及びIについての「ころす」等の文言は、主として原告ら四名を含むグループの一員であるEが書いたものである。

(六) 九州人会での出来事

平成八年一月ころ、Jを幹事とする九州人会の集まりがあったが、同会の二次会の途中から参加したCは、二次会の会費を払うか否かでもめ、Jの手伝いで会費の請求に来た女子学生の態度が気にいらなかったため、結局、二次会の会場から出ていった。なお、このことについて、同会に参加していた原告は、Cが会費を払う気がないと決めつけたうえ、Jが会費を請求し、非難したものと理解した。

(原告の主張)

原告ら四名はグループになってJらに対していじめ行為をしたことはなく、被告主張の(二)(トイレ事件)、(四)(I宅訪問の件)及び(五)(KMSページの落書きの件)については原告は無関係である。

また、被告主張の(三)(パンツ事件)については、真相は次のとおりであり、いじめではない。すなわち、原告が、呼出しに応じて合宿室に戻ってきたGに対し、「お前がなかなか戻って来んから、Kはパンツ一枚になって待っていたんよ。」と冗談を言ったところ、相当酔っていたKが、Gに対して「お前も脱げ。」と言ってからみ、Gは、「脱ぎます。僕、ブリーフなんですけどいいですか。」等とおどけて言った。原告は、その場が気まずくなるのではないかと思い、「俺も脱ごう。」と言ってパンツ一枚になったところ、飲み会の参加者が次々とパンツ姿になった。そして、Hが、記念写真を撮ろうかと言ったところ、Gは、「僕、反省しとるポーズとります。」等と言って自発的に「猿回しの反省のポーズ」をとったのである。

4  本件処分は学長の裁量権の範囲を逸脱し違法か。

(原告の主張)

(一) 本件処分の違法性

本件処分は虚構の事実及び事実誤認に基づくものであり、本件暴力事件における原告の行為は学則四八条一項所定の「学生の本分にもとる行為」に当たらない。よって、本件処分は学長の懲戒権を濫用し、あるいは、その裁量の範囲を逸脱したものであり違法である。

(二) 本件処分による原告の損害額

原告は、違法な本件処分により留年を余儀なくされ、これにより次のような損害を被った。

(1)  授業料一年分 三七万五六〇〇円

(2)  逸失利益 六四五万六五八〇円

原告は、香川医大卒業後は北九州市内の財団法人健和会大手町病院への就職が内定しており、右法人の初任給は年六四五万六五八〇円であるところ、一年間の就業遅滞によりこれに相当する損害を被った。

(3)  慰謝料 一二〇万円

原告は、理由も告知されないまま違法な本件処分を受け、これにより大学施設の利用も禁じられ、身に覚えのない非行事実の流布により著しく名誉感情を侵害された。これによる精神的損害を金銭に換算すれば一二〇万円は下らない。

(4)  弁護士費用 九六万円

(被告の主張)

(一) 大学の学生に対する懲戒処分は、教育施設としての大学の内部規律を維持し、教育目的を達成するために認められる自律作用である。そして、懲戒権者である学長が学生に対して懲戒処分を発動するにあたり、懲戒処分の可否及び懲戒処分の内容を判断、決定するには、諸般の要素を斟酌する必要があり、その判断は直接教育に当たる者の裁量に委ねるのでなければ、適切な結果を期待することができない。したがって、懲戒処分の発動の可否及び懲戒処分の内容の決定は、その決定が、全く事実上の根拠に基づかない場合や、社会観念上著しく妥当性を欠くものと認められる場合を除き、懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきである。

(二) 香川医大は、人間性に対する深い思索と医学等における創造的で知性豊かな臨床医等を育成すること等を目的とし(学則一条)、これに沿って勉学と人格の涵養に努めるよう学生を指導している。しかしながら、本件暴力事件は、原告らが、深夜、酒に酔って徒党を組み、Jに因縁を付けて呼び出したうえ、暴行したという、一般社会の常識を逸脱したものである。確かに、原告自身は、Jに対して暴力を振るったわけではないが、未然に防ぐ機会があったにもかかわらず漫然とCらに同行し、Cの暴力を阻止せず傍観していたものであり、このような態度は、それ以前からの原告ら四名のグループとしての挙動(前記3)ともあいまって、結果的にはCの暴力行為を助長したものと評価されるべきであり、原告としても、自己の右行為がそのような評価を受けることは容易に理解できたはずである。医学を志す者がこのような非常識な行為を行うことは許されない。そこで、同大学長は、原告の本件暴力事件への関与について六か月間の停学処分という懲戒処分に処するのが相当であると判断して本件処分を行ったのである。したがって、本件処分は、学長の裁量権の範囲を逸脱するものではなく、違法ではない。

(三) 仮に本件処分により原告に損害が生じているとしても、原告が本件処分により留年することなく卒業した後、医師国家試験に合格するという確証はないから、医師として就業した場合の給料を逸失利益として損害に含めるべきではない。

第三当裁判所の判断

一  本件処分は司法審査の対象となるか(争点1について)。

本訴請求は国家賠償法一条に基づく損害賠償請求権の当否に関する紛争である。その判断の前提として本件処分の当否を審査しなければならない関係にあり、その当否を法令の適用によって終局的に解決することは可能であるが、法令の適用によって終局的に解決できる事項であっても、自律的法規範を有する団体の内部規律の問題として自治的措置に任せられるべき紛争で、司法審査の及ばない場合がある(地方議会の議員に対する出席停止の懲罰決議につき最高裁判所昭和三五年一〇月一九日民集一四巻一二号二六三三頁、大学における授業料目の単位授与行為につき最高裁判所昭和五二年三月一五日民集三一巻二号二三四頁参照)。しかし、当該紛争が右団体の内部規律の問題の範囲を超え、市民法秩序につながる問題である場合は、司法審査の対象となると解するのが相当である。

そこで検討するに、校長は教育上必要があると認めるときは、監督庁の定めるところにより学生に懲戒を加えることができ(学校教育法一一条)、国立大学の監督官庁である文部大臣の定める学校教育法施行規則一三条一項には、学生に対し懲戒を加えるにあたっては教育上必要な配慮をしなければならないと規定され、これらの規定を受けて香川医大は、学則四八条で、本学の規則に違反し、その他学生としての本分にもとる行為をした学生は、学長が教授会の議を経て懲戒することができ、その懲戒は退学、停学及び訓告の三種を定めている(乙一)。

香川医大学長の右懲戒権は、同大学の理想とする教育を行うため、教育の場としての学内の秩序を自ら維持し、又は当該学生に対する教育的見地からこれを行使すべき権利であり、その意味において懲戒権の発動は教育施行のための自律的法規範をもつ団体の内部規律の問題であると解される。

本件処分は、六か月間の停学処分であるところ、証拠(乙一、証人神保利春、原告本人)によれば、大学医学部では通常停学期間が複数月続くと留年となるカリキュラム体制が組まれており、香川医大においても停学期間が一か月以上になると留年を余儀なくされること、また、本件処分による停学期間が進級試験である定期試験の時期と重なっていること、右各事情もあって、本件処分により、原告は六年次に進級できず五年次に留年しており、本件処分が上級学年における授業を受ける機会を奪い、ひいては大学の卒業年度を遅らせる結果をもたらしたことが認められる。

これらの事実に基づけば、本件処分は、原告を香川医大という公の教育施設の利用関係から排除するものであり、留年が避けられないという客観的に大きな不利益を与えることから考えると、単なる内部規律の問題の範囲を超えた市民法秩序につながる問題であるから、司法審査の対象になるというべきである。

二  本件処分の対象事実の存否(争点2について)

1  証拠(甲九、一四、一六、乙六ないし一一、一六、二四、二七、証人C、同D、同G、同J、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、本件暴力事件に至る経緯及び本件暴力事件について以下のとおりの事実が認められる。

(一) 原告は、平成八年一一月一四日の夕方ころから、女子学生宅において、C、E、D、H及びFらと飲酒していたところ、同年一月二〇日に開催された九州人会の集まりのことが話題となり、飛び入りで九州人会の二次会から参加したCが幹事から女子学生を通じて会費を請求されたことや、九州出身であるFが右会合に呼ばれなかった理由などを問いただすために、翌一五日の午前一時前ころ、九州人会の幹事(畦地、J)の一人であるJに電話をすることとなった。(乙二三、証人C、弁論の全趣旨)

(二) Jの電話番号がわからなかったため、CはGに電話をかけ、J宅の電話番号を教えるように要求した。Gは、Jが電話番号を変更して友人の数人にしか教えていないことを知っていたことから、メモ書きがないなどと言って知らないふりをした。しかし、Cが「お前が、Jの電話番号を知らないわけないやろうが。早く教えろ。教えないと、どうなるのか分かってるのか。」と強要したため、Gはそれ以上知らないふりを続けることができないと思い、やむなくCに対してJ宅の電話番号を教えた。Gは、直ちにJに架電し、Cに脅されて電話番号を教えてしまったことを伝え、その後、Jのことを心配してJ宅に駆けつけた。(甲九、乙二四、証人G、同J)

(三) Cは、J宅に架電し、Fと共に、Jに対し、Fを九州人会に呼ばないのはおかしいとか、飛び入りで参加したCから会費を徴収するのはおかしいなどと述べた。これに対しJも感情的になるなどしたことから、C及びFは興奮して大声で怒鳴るようになり、Jに非があるとして責め立てた。途中、原告も、電話に出て、Jに対し、強い口調でCらへの謝罪を求めるなどした。JはFを呼ばなかったことについて謝罪するなどしたが、聞き入れられなかった。その後、立腹したCはJに香川医大のラウンジに来るように求めたが、Jは、数日後に控えた香川医大の試験勉強の最中であったこと、時刻が深夜一時半であったこと、体調が優れなかったことなどから、一度はこれを拒絶した。しかし、Cは「池戸駅に来い。来なかったら(自宅に)行くぞ。」などと強要したことから、Jはやむなく右呼出しに応じることにした。

Jは、Cらの電話の口調からCらが徒党を組んで押し掛けてくることに身の危険を感じ、高松東警察署に電話をした。同署は、池戸駅付近をパトロールしてみる旨回答した。(以上、(三)につき、乙二三、証人G、同J、弁論の全趣旨)

(四) 同日午前一時三〇分ころ、原告は、F、E及びDと共に、飲酒後間もないCの運転する車に同乗して、池戸駅に向かった。Cが、池戸駅の近くにあるJの住むアパートの駐車場に車を停めると、原告ら四名及びFは車を降りて、大声を上げていた。そのうち、F、E及びDは、途中で落とした車のマフラーカッターを探しに行ったが、間もなくCに対しこれを見つけた旨の合図をした。一方、Jは、警察への電話の直後、Cらが来たことに気付き、自宅まで押しかけられるかもしれないとの恐怖心と話し合えばわかるかもしれないとのかすかな期待を抱いて、池戸駅に向かった。原告らが池戸駅の方に向かって歩いていると、JとCが出会った。Cは、Jに近づき、Jが一言二言述べるや、いきなりJを足蹴りした。Jは池戸駅と反対の方向に逃げ、Cはこの後を追いかけた。少し遅れて、原告が二人の後を追った。Cは、追跡中に、持っていた懐中電灯を投げるなどしたうえ、追いついたJに対し、髪の毛を引っ張り回し、胸を膝蹴りしてJを蹴り倒し、倒れたJの背中に数回足蹴りした。他方、二人に追いついた原告は、大したことはないと考えて傍らに立っていた。(甲一四、乙六ないし八、二三、証人J、同C、同D、弁論の全趣旨)

右暴行に先立ち、Gは、遅れてJ宅の玄関を出たが、Jの悲鳴を聞いたので怖くなり、Jのいる方向と逆に、塀を越えて琴電の線路に沿って池戸駅の方へ逃げた。そして、ブロック塀の穴からJのアパートの駐車場に原告らの車が来ていることを確認し、近くの公衆電話から警察に救助を求めると、既にパトカーが現地に向かっているとのことであった。

マフラーカッターを探して戻ったFは、Cがいきなり暴力を振るったのをまずいと思い、Cに対し、「お前が蹴ったんだから、お前がけりをつけろ。」と言ったり、Jから三、四メートル離れた壁際に座って煙草を吸うなどしていたが、パトカーが来たのに気づき、「近所の人が通報したからずらかろうぜ。」と言って逃走を図ろうとした。しかし、パトカーがCの車の隣に停車したので、逃げることはできなかった。原告は「起きろ。」と言って倒れていたJを同人の左側を、もう一人が右側を支えて立たせ、パトカーの所へ歩いて行った。警察官は、救助を要請したJを確認したうえ、事情聴取のため原告ら四名、F及びJに高松東警察署まで同行を求めた。

Jは、当日、加療一週間の打撲症の診断で治療を受けた。(以上につき、乙二三、証人J)

2  原告は、Cの暴力を目撃し、これを止めるために同人を追いかけ、Cに対し暴行を止めるように呼びかけ、Cに追いついたときにはCは暴行を止めていた旨主張し、これに沿う原告本人の供述(甲一六を含む。)がある。

しかし、<1>本件暴力事件直後に、当時香川医大の厚生補導委員であった小林省二が原告に事情聴取した際、原告はCの暴行を止めたと明言せず、大したことはないと思い、じっと見ていた趣旨の発言をしていること(乙三二、証人小林)、<2>Cも、Cの一番近くにいた原告が他の者より先にCの暴行を止めるように言ったとか、原告の声で暴行を止めたとは証言していないこと(証人C)、<3>JもCの暴行を制止する発言を聞いていないこと(証人J)に照らし、原告本人の右供述は採用できない。

3  右1の認定事実によれば、被告主張の本件処分の対象事実を認めることができる。

三  本件処分の対象事実の背景事情として、本件暴力事件以前に原告ら四名がグループを形成したうえ、G、J及びIに対して共同していじめ行為を行っていたか(争点3について)。

1  パンツ事件

(一) 前記前提となる事実、並びに証拠(乙一九、二〇、二三、二四、証人G、同J)及び弁論の全趣旨によって認められる事実は、以下のとおりである。

(1)  原告は、平成七年六月一五日、D、C及びEらと共に、香川医大の合宿室での飲み会を行い、壁を叩くなどして大騒ぎをしていたが、Kから、Gらが実習のレポートのデータを渡さずKを疎外しているなどと聞き、また、Gらが原告の悪口を言っていると他の者から聞いたことから、夜遅く、隣室での勉強会を終えたG及びJを飲み会に誘ったところ、Gだけがこれに応じてやって来た。

飲み会に参加していた者の中には、Gに対し「先輩の言うことは絶対聞かなければならない。大学で勉強ばっかりするな。」などと言う者がいた。また、原告は、Gに対してKの右不満について述べ、「とりあえず飲め。」と言って焼酎を勧めた。Gは口を付ける程度に飲んだ後、隙をみて自宅に帰った。そこで、原告は、Gに電話を架けて「どうして途中で帰ったんだ。俺が注いだ酒を全部飲まないのは納得できない。」と述べて飲み会に戻るよう求め、Gがこれを断ると、「お前がどうしても来ないのなら、俺達がお前の家に押しかけてやる。家の前で騒ぎ立ててやる。」などと強い口調で言い、深夜、Gを再び合宿室に呼び出した。

合宿室では、飲み会の参加者のうち何名かが衣服を脱いでパンツ一枚になっていたところ、原告は、Gに対し「Kはパンツ一枚になって、Gが戻ってくるのを待っていた。先輩方が服を脱いでいるのにお前が服を着ているのはおかしいから、お前も脱げ。」などと言って強要し、Gをパンツ一枚にさせた。その後、Gは親の職業を聞かれ、医者ではない旨答えたが、その際、飲み会の参加者が、原告の父は弁護士で偉いのだと言うと、原告はGを土下座させ、「俺は裁判官で、お前は罪人だ。」などと言った。これに対し、Gは反省のポーズを取り、HがGの土下座している場面を写真に撮った。

後日、Gは、Jに対し、土下座してパンツ一枚で写真を撮られたので、その写真が出回るのが怖いとの相談を持ちかけていた。

(2)  Kは、同月一六日午前二時一九分ころ、Jを飲み会へ呼び出そうとして、酔った口調で「Gが来たのにJ来んちゅうのは何じゃ、お前。」などとJの留守番電話に伝言を入れた。その直後に、原告もJに電話を架け、留守番電話に、冷静な口調で「ちょっと連絡を取りたいので、居場所がわかり次第合宿室に連絡を取ってほしいんですよ。来なかったら気まずいんで。僕も何も言いたくないので。」といった伝言を残した。その後五〇分ほどしてから、飲み会の参加者のうちの誰かがJの留守番電話に、ファミリーレストランに来ないと家を爆破する旨の伝言を残した。

Jは、翌日、両親に相談したうえ、電話番号を変更した。

(二) 以上の認定事実に反する証拠(甲九、乙九、証人D、同C、原告本人)も存するが、Gが呼び出された経緯等に照らし採用できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

2  スキー部員の呼出行為

証拠(乙六、証人小林、原告本人)によれば、以下の事実が認められる。

原告は、スキー部員が「アスパラガス」の悪口を言っていると人伝てに聞き、スキー部員の一人に電話をかけて調べるように頼み、悪口を言った者はいないとする同人と口論になった。その後、平成七年の新入生勧誘の時期の午前六時ころ、スキー部員二名が、原告ら四名を含む「アスパラガス」のメンバーがいる合宿室に呼び出され、「アスパラガス」の悪口を言ったとして激しく抗議を受けた。さらに、別のスキー部員二名も呼び出され、右スキー部員らは、これを強く否定したが、スキー部員勧誘についての詫び状を取られ、これが学友会の黒板に張り出された。

3  右1、2で認定したとおり、原告は、本件暴力事件以前に、自己の所属するグループの悪口を言われたなどとして抗議をするため、あるいは、相手の態度に対する不満を解消するため、相手の都合を全く考慮せず、早朝や深夜、集団で待っているところに少人数の相手を無理矢理呼び出したうえ、問い詰めたり、土下座を無理強いするなどしているのであって、これを一種のいじめと評価することは可能であり、原告は、このようないじめを容認する姿勢を有していたことが認められる。

4  ところで、被告は、右1、2に加え、トイレ事件、I宅訪問の件、KMSページの件、九州人会での出来事の件(それぞれ争点3被告の主張(二)、(四)ないし(六))を挙げて、原告ら四名がグループを形成して、G、J及びIに対して共同していじめを行っていたと主張する。

既にみたとおり、原告ら四名は「アスパラガス」のメンバーであり、交友関係を有していたものである。

しかし、被告の主張する右各行為(争点3被告の主張(二)、(四)ないし(六))のいずれについても、「アスパラガス」のメンバーの一部が、G、J及びIらに対してなした行為であることは弁論の全趣旨から明らかであるが、それ以上に、原告が右各行為に直接関与したり、あるいは、原告の意を受けて「アスパラガス」のメンバーが行ったと認めるに足りる証拠はない。

そして、G、J及びIが、右各行為(争点3被告の主張(二)、(四)ないし(六))につき、原告を含めた「アスパラガス」のグループ全体からの行為であると考えることがあったとしても、そのことから直ちに原告が共同して右各行為を行ったものと評価することはできないというべきである。そうすると、右各行為の詳細な内容を検討するまでもなく、右各行為を根拠として、本件暴力事件以前に原告ら四名がグループを形成して、G、Jらに対して共同していじめ行為を行っていたと評価することはできない。

四  本件処分は学長の裁量権の範囲を逸脱し違法か(争点4について)。

1  国立大学の学生に対する懲戒処分は、教育及び研究の施設として大学の内部規律を維持し、教育目的を達成するために認められる自律作用であって、懲戒権者たる学長が学生の行為に対して懲戒処分を発動するにあたり、その行為が懲戒に値するものであるかどうか、また、懲戒処分のうちいずれの処分を選ぶべきかを決するについては、当該行為の軽重のほか、本人の性格及び平素の行状、右行為の他の学生に与える影響、懲戒処分の本人及び他の学生に及ぼす訓戒的効果、右行為を不問に付した場合の一般的影響等諸般の要素を考慮する必要があり、これらの点の判断は、学内の事情に通暁し直接教育に当たる者の合理的な裁量に任せるのでなければ、適切な結果を期しがたい。

したがって、学生の行為に対する懲戒処分の適否、その内容の選択の判断については、懲戒権者である学長の合理的な裁量に委ねられるべきものであり、裁判所がその処分の適否を審査するに当たっては、学長と同一の立場に立って当該処分をすべきであったかどうか等について判断し、その結果と当該処分とを比較してその適否、軽重等を論ずべきものではなく、学長の裁量権の行使としての処分が、全く事実の基礎を欠くと認められる場合であるかあるいは社会通念上著しく妥当を欠き、懲戒権者に任された裁量権の範囲を超え又は濫用してされたと認められる場合に限り、違法であると判断すべきである(最高裁判所平成八年三月八日民集五〇巻三号四六九頁参照)。

2  以上の観点に立って本件をみるに、前記二(争点2について)のとおり、本件処分は、全くその事実の基礎を欠くものではない。

3  次に、1を前提に本件処分が社会通念上著しく妥当を欠くものであるかどうかを検討する。

(一) 前記第三の三(争点3)で述べたとおり、本件暴力事件以前に原告が関与したいじめは二件のみであり、本件暴力事件から約一年半も前のことではある。しかし、本件暴力事件も、右二件と全く同様に、相手に抗議をするため、あるいは、相手の態度に対する不満を解消するため、相手の都合を全く考慮せず、深夜に、集団で少人数の相手のところへ押しかけて行くかあるいは呼び出したというものである。その意味では、右二件の原告の行動は本件暴力事件の重要な背景事情とみることができる。

そして、右背景事情も併せ考慮すると、<1>本件暴力事件において、特に、原告のJに対する謝罪の強要や徒党を組んでの押し掛け行為は、いじめを容認する原告の態度の発現とみることができるのであり、本件暴力事件とそれ以前のいじめの期間が離れていることを考慮しても、原告が本件暴力事件にたまたま関与したものとはいいがたいというべきである。さらに、<2>本件暴力事件における暴行自体についても、原告は、暴力こそ振るっていないものの、本件暴力事件以前からの原告の態度と相俟って、いじめの延長として起こったCの暴行を容認したと評価することも十分可能である。

(二) 学則には、香川医大は、教育基本法等に基づき、人間性に対する深い思索と医学・医術における想像的で知性豊かな臨床医及び医学研究者を育成することを目的とし、併せて医学の進展、国民の健康増進及び社会福祉に貢献するとともに地域医療の向上に寄与することを使命とする旨の規定がある(乙一)。香川医大では、右学則に基づき、学生に対し、倫理観や生命の尊厳についての深い認識を持つように指導をしている(乙二一、証人神保)。

(三) なお、本件処分の経緯について検討しておくと、前記前提となる事実及び証拠(乙一七、二九、三一、証人神保)により認められる事実によれば、以下のとおりである。

本件暴力事件の後、香川医大の教授等で構成し、学生の生活に関する事項等を審議する厚生補導委員会は、本件暴力事件に関与した者らに対する事情聴取を行うなどして本件暴力事件の調査を行ったうえ、学生の進級、処分等に関する事項を審議する教務委員会との合同委員会を開催するなどして厚生補導委員会の調査結果を報告した。これを受けた教務委員会は、右報告を整理し、最終的な学生の処分を決定する機関である教授会で検討するための資料として、処分案を作成したが、その中で、「本件暴力事件の概要が別紙一のとおりであることを確認し、約一年前からのいじめや嫌がらせの結果であると判断した。そして、原告ら四名及びFのグループを中心とした数件に及ぶ脅しや嫌がらせが存在すると判明した。」旨の厚生補導委員会の調査結果を示し、さらに、処分理由として、「過去の偶発的な事件とは全く異なり医学部における『いじめ問題』を内蔵した意図的な事件」と位置づけたうえで、「少なくとも五名のグループについては、これ以外にも医学部学生としてあるまじき行為と考えられる事実が存在することに鑑み、教育環境の正常化のためにも適切かつ厳正な処分を課すことが妥当」であると示して、原告に対する停学六か月の処分内容を提案した。

教授会においては、右処分案をふまえて教務委員会からの説明があり、協議の結果、教務委員会の処分案と同様の意見にまとまり、当時の香川医大学長入野昭三は、本件暴力事件が原告ら四名及びFを含むグループが約一年前から行っていたいじめや嫌がらせ行為に関連するものであり、偶発的な単なる暴行にとどまらない「いじめ」であると判断したうえで、原告に対し、香川医大学生としての本分にもとる行為があったことを理由に、学則四八条一項及び二項に基づく懲戒処分として六か月の停学処分を行った。

(四) 以上、右(一)の原告の関与状況、右(二)の学則の趣旨や香川医大の指導方針、及び右(三)の本件処分に至る経緯に加え、医学部の学生は、将来、人命を預かる医師になるのであるから、より高い倫理性を求められると解することにも合理性があること、本件処分は退学処分のように学生の身分をはく奪するものではないこと、仮に本件処分による停学期間が一か月であったとしても原告は留年となり、特に、本件処分は進級試験である定期試験の時期と重なっていたため、本件処分より更に短い停学期間であっても留年となったと解されること(証人神保)、本件処分が香川医大の他の学生に対する処分に比して極端に重いと認めるに足りる証拠も存しないことなどの諸事情に照らせば、学長が「香川医大学生としての本分にもとる行為があった」ことを理由に行った停学六か月という本件処分が、社会通念上著しく妥当を欠き、懲戒権者に任された裁量権を濫用し又はその範囲を超えてなされたものであるとはいえない。

4  よって、本件処分には国家賠償法一条にいう「違法」性が認められない。

五  したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用については民事訴訟法六一条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 馬渕勉 裁判官 真鍋美穂子 裁判官 佐藤弘規)

別紙一

平成八年一一月一四日(木)一九時頃から軟式野球部マネージャの看護学科生の下宿において、三年次生C、四年次生E、D祐次、五年次生A、H、六年次生Fが宴会を行っていた。その時、一年ほど前に開催された九州人会のことが話題になり、Fが、四年次生Jの下宿に電話して次回の開催はいつ頃かなどを話しているうちに、Cが電話に出て、前回に開催された九州人会の集まりの時、遅れて参加したCの会費を女子学生を通じて請求したことに対して、その取り扱いで両者の言い分が異なり電話では話がつかないので、Jの下宿に行くことになった。

一一月一五日(金)午前一時三〇分頃、Cの運転する車でE、D、A及びFの五人がJの下宿へ行った。途中で車のマフラーを落としたので、Jの下宿の駐車場に車を止めた後、E、D及びFはマフラーを探しに道を引き返した。

駐車場に車を止めた時、既に、Jは下宿から出てきて外で待っていた。Jが下宿から出る前に友人のGが心配して高松東警察署に連絡をしていた。

Cは、一こと二こと言葉を交わした後、いきなり四~五回腕胴の当たりを足で蹴った。逃げ出したJを追いかけ更に蹴った。この間、Jは全く反撃せず無抵抗であった。Aは、そばにいながら、大したことはないと思い、二人のそばに立っていた。Cが蹴るのを止めた頃、E、D及びFが戻ってきた。それからしばらくして、パトカーが来て、全員、高松東警察署に来るように言われ警察署でCとEが事情聴取を受けた。

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